フリーランスになって1年目、初めて迎えた確定申告の冬。
会計知識ゼロだった私は「確定申告してね」との社長に突然言われ、頭が真っ白になりました…
あの時自分が欲しかった基本情報を、確定申告が初めての人に向けて翻訳者目線でまとめてみました。
この記事では次の点を中心に書いています。
- 自分が確定申告をすべきか確かめる方法が分かる
- 会計知識がなくても、売上や経費を整理できるようになる(確定申告の前段階)
- 利益が出ていなくても、確定申告で得られるメリットが分かる
もしよければ興味のあるポイントだけお読みいただければ幸いです。
知っておきたい基本用語
確定申告をする時によく使われる基本的な会計用語です。これを知ってるだけでも、確定申告がグッと楽になります。
- 確定申告…会社員で言うところの“年末調整”。1年間の所得金額、控除額、所得税などを確定させる手続き。1月1日~12月31日の分をまとめて、2~3月の申告期間に税務署に提出する
- 売上…翻訳会社からもらう翻訳報酬などの収入
- 経費…仕事をするためにかかったお金。仕事用パソコン購入費や字幕制作ソフトの使用料金など
- 所得…1年間の売上から経費を引いた金額
- 所得控除…所得税を計算する時に各納税者の個人的事情を加味してくれるもの。自分の所得から所得控除を差し引き、その残りの金額を基に所得税額が計算される。つまり、控除が多ければ多いほど所得税が低くなりやすい。適用される種類や金額は人によって異なる。(詳細は国税庁HPへ)
最初は混乱しますが少しずつ慣れていきます…多分…
そもそも確定申告しなきゃダメなのか
会社員ならその会社の経理部が代わりに年末調整や納税手続きをしてくれますが、フリーランスは1年間の所得が一定額を超えると確定申告が必要です。“一定額”の具体的な数字は本業と副業で異なります。
本業翻訳者と副業翻訳者の場合
※状況によって変わりますので、税務署に問い合わせるのが確実です
申告が必要かどうかを知るためにも、自分の所得がいくらなのかを計算する必要があります。
ここでは翻訳が本業の場合を想定して確認を行っていきます。
自分の所得金額を把握する
売上と経費をリストアップ
所得金額を計算するために、まずは1~12月の売上と経費をリストアップしていきます。
ここでは具体例を用いて整理してみます。
【売上】(例)
納品日 | 翻訳物 | 報酬金額 | 入金日 | 振込額 | 源泉所得税 |
---|---|---|---|---|---|
1月10日 | 作品A | 30,000円 | 3月25日 | 26,937円 | 3,063円 |
5月15日 | 作品B | 30,000円 | 7月31日 | 26,937円 | 3,063円 |
10月1日 | 作品C | 50,000円 | 12月26日 | 44,895円 | 5,105円 |
10月20日 | 作品D | 50,000円 | 12月26日 | 44,895円 | 5,105円 |
12月7日 | 作品E | 50,000円 | 翌年2月25日 | 44,895円 | 5,105円 |
合計 | 210,000円 | 188,559円 | 21,441円 |
【経費】(例)
購入日 | 購入品 | 購入金額 |
---|---|---|
1月10日 | パソコン | 99,000円 |
1月15日 | 字幕制作ソフト12カ月分チケット | 39,336円 |
4月24日 | 参考書籍 | 1,000円 |
7月2日 | 字幕ブラッシュアップ講座 | 50,000円 |
合計 | 189,336円 |
売上合計額から経費合計額を差し引くと所得金額が導き出せます。
この例の場合は 売上合計210,000円-経費合計189,336円=所得20,664円 となります。
翻訳が本業の場合はここから所得控除を引いて黒字になれば確定申告が必要になるわけですが、所得控除のうち、全員もれなく適用される“基礎控除”が48万円なので、20,664円-480,000円=▲459,336円で赤字となり、この例の場合は申告不要ということが分かります。
(※基礎控除以外の所得控除は人によって適用される種類も金額も異なるので調べる必要がありますが、国税庁の確定申告書等作成コーナーや会計ソフトの確定申告作成画面で入力すると自動的に算出されたりするので、そこで確認することもできます。)
以上のように集計する際に、注意したい点があります。
注意1 集計する売上は“納品日”が1~12月のもの
「1~12月の売上を集計する」と言っても納品日から入金日までタイムラグがあるので、いつを基準に集計すべきか迷うかもしれません。
納品日ベース?入金日ベース?
結論から言うと、売上を計上するタイミングは、特段の取り決めがなければ、自分が納品した日付基準にします。
例えば2022年12月31日に納品したら、その入金が翌年になったとしても2022年中の売上に。
逆に2022年に入金があったとしても、それが2021年に納品したものであれば、2021年の売上にします。
(参考 国税庁の「役務の提供に係る収益について」)
注意2 売上に計上するのは振込金額ではなく請求金額
翻訳は請求金額と実際の振込金額が異なるため、どちらの金額を売上とすべきか紛らわしいのですが、
翻訳会社に請求した金額を売上として計上します。
翻訳報酬は報酬金額の10.21%が源泉徴収される決まりになっているため実際の振込金額は報酬額から源泉所得税を引いたあとの金額ですが、源泉所得税を含んだ請求額を計上していく、ということになります。(参考「令和5年版 源泉徴収のしかた」報酬・料金等の源泉徴収事務)
(※日本以外に居住している場合、源泉徴収が減免される国もあるようですので、詳しくは問い合わせたほうがいいかもしれません…)
注意3 経費にできるものは仕事関連に限る
原則として仕事のために購入したものは経費として計上することができます。
状況によりますが、映像翻訳者の場合、次のようなものも経費にできる可能性があります。
- 字幕制作ソフトウェアなどの購入費用・サブスクリプション料金
- パソコン、ヘッドホン、プリンター、デスク、チェアなどの機器の購入費用
- 印刷用紙やインク
- 参考資料として用いる書籍の購入代金
- 翻訳スキルアップのための講習費用
- 作業場所の電気代、通信費、家賃(白色申告だと青色より適用ルールが厳しいという話もありますが「そうではない」という記事も)
ただし、仕事に関係のないものはもちろん経費にすることはできません。
翻訳はジャンルが幅広いので一概には言えませんが、例えば水道代やガス代などは一般的には翻訳と無関係なので難しいと思います。
経費にする場合は、それが仕事に関係あるものだと裏付ける根拠を用意しておきたいところです。
また、プライベートでも使用するものに関しては、プライベートでの使用分を差し引くが必要があります。
例えば10万円のパソコンを購入した場合、仕事専用ならば10万円をまるまる経費に計上しますが、仕事とプライベート半々の割合で使うのならば、5割、つまり5万円だけ経費に計上します。
これを“家事按分(あんぶん)”と言います。
経費の家事按分(あんぶん)とは?
仕事でもプライベートでも使っているものを、使用比率を決めて分けることを家事按分と言います。
按分比率を決める時は「なぜその按分にしたのか」という合理性を示す根拠が必要です。
例えば自宅で仕事をしている場合の電気代。通常の家庭であれば電気メーターは一つなので仕事用もプライベート用も合算されています。
それをある一定のルールに基づいて按分し、経費を算出します。
例えば…
- 自宅の総面積に占める仕事部屋の面積
- 全コンセントの数に占める仕事部屋のコンセント数
- 1年間の総時間に占める作業時間など
個人の事情に合わせて最適な按分方法を決めます。
少しでも合理性に欠けると思ったら、無理に経費にしないほうが無難かもしれません。
たとえ赤字でも受けられる確定申告のメリット
計算してみた結果、確定申告が不要な所得金額だったと分かれば「面倒だから確定申告しなくてもいいか」という判断を下すこともできます。実際に申告するのは面倒です。
ですが、それでも申告したほうがメリットが大きいと私は考えています。
私自身、ほとんど収入がなかった年も欠かさず申告してきました。
メリット1 報酬で“天引き”された源泉所得税の還付を受けられる
翻訳報酬は、請求金額から源泉所得税が引かれた残金が振り込まれます。
例えば報酬が1万円なら、その10.21%の1,021円が源泉所得税で引かれ、残りの8,979円が振り込まれます。
この“天引き”された源泉所得税が、本来納めるべき所得税より多ければ、その差額が還付されることになります。
所得が少なかった場合、ましてや赤字だった場合は「確定申告=還付金を請求する手続き」とも言えるので、申告しないと損です。
メリット2 収入証明・就労証明ができる
ローンを組む時、家を借りる時、保育園に申し込む時…さまざまなシチュエーションで収入証明・就労証明を求められることがありますが、その時に求められるのが確定申告書の控えです。
これがフリーランス翻訳者の唯一最強(?)の公的な証明書になります。
収入証明が必要な瞬間は突然やって来ます。
現に、家を購入したい時や保育園に申し込んだ時に求められましたし、その後もことあるごとに提出を求められています。
「確定申告しておくべきだった!」と悔やむことがないよう、面倒ですが、毎年申告しておくことをお勧めします。
※私が保育園に申し込んだ時は、役所の方には所得金額ではなく売上金額をチェックされ、ちゃんと“収入あり”と見なされました。確定申告以外の証明書はなかったので、「申告しておいてよかった」と胸をなで下ろした記憶があります。
※2~3月の確定申告期間外でも申告することは可能です。詳しくは国税庁「No.2024 確定申告を忘れたとき」
メリット3 所得が赤字だった場合、翌年に繰り越して節税できる(青色申告の場合)
確定申告のうち“青色申告”で損失申告すれば、その年に出た赤字分を、翌年の黒字と相殺させることができるので、節税になります。
以上のことから、所得金額がいくらになっても、確定申告したほうがメリットが大きいと思います。
その他の注意
お金に関するデータや書類は保存しておく
売上や経費に関するデータや書類は、申告内容の根拠となりますので捨てないで保存しておきます。
例えば翻訳料の支払調書、字幕制作ソフトの使用料金の領収書、翻訳資料として購入した本の領収書などなど。
そのつど整理したり、月ごとにまとめたりできれば理想です。
「あの本の領収書はどこだっけ」とか「インターネット料金を調べたいけどパスワードは何だっけ」とか、懲りずによく慌てています…
ちなみに、翻訳者として開業する前に使ったお金(例えば仕事用パソコンやイヤホンの購入など)も、開業後に開業費として申告できる場合がありますので保存しておくことをお勧めします。
保存方法は紙かデータか
領収書が紙の状態であれば紙で、データの状態であればデータで保存します。
これまでは、もともとデータだった領収書などをプリントアウトして保存することも認められていましたが、改正電子帳簿保存法の施行により、2024年1月からデータはデータのままでの保存が必要になるそうです。(参考 経済産業省 どうすればいいの?「電子帳簿保存法」、国税庁「電子取引関係」)
いつまで保存すればいいのか
確定申告に係る書類の保存期間は白色申告なら5年、青色申告なら7年、欠損金の繰越控除をする場合は10年間と定められており、その年の確定申告が終わったとしても保存しておく必要があります。(参考 国税庁「帳簿書類等の保存期間」)
白色申告と青色申告?
確定申告には白色申告と青色申告という2種類の申告方法があります。
白色申告は売上と経費が分かれば簡単に提出できる申告方法です。節税はほとんどできないので、稼ぎがほんの僅かで、簡易的に済ませたい人にはいいかもしれません。※会計知識ゼロの私もできました
一方の青色申告は、記帳方法が複雑にはなるものの節税効果が極めて大きいので、少し稼ぎがある人や、赤字が大きかった人にはぜひチャレンジしてほしい申告方法です。
少し難しいですが、早めに青色に切り替えて申告することをお勧めします。
※会計知識ゼロの私は地元の青色申告会の講習を数回受けてできるようになりました。
お勧めは青色です!控除が大きい!
慣れるまで大変ですけど…(白目)
ただし、「青色申告をしたい」と思ってもすぐにできるわけではありません。
青色申告をしたい年の3月15日までに税務署に届け出る必要がありますので気を付けたいところです。
新規開業した場合は、業務開始時から2カ月以内に税務署に届け出る必要があります。(国税庁 No.2070 青色申告制度)
会計ソフトは使ったほうがいい?
白色申告であれば、会計ソフトを使わずにExcelなどで整理できると思います。そのExcelデータを手元に置きながら国税庁の確定申告作成コーナーで入力していけば、確定申告が完了します。
青色申告であれば、会計ソフトに頼るのがいいと思います。
ただし会計ソフトの宣伝文句を見ればどこも「簡単!」と書かれてますが、会計知識ゼロの私には正直「???」でした。
“仕訳” “事業主借” “売掛金”…それは日本語なのか…?
青色申告ができる会計知識がなければ、どんなに簡単なソフトとうたわれようが意味がありません。
青色申告の勉強をしつつ、同時に会計ソフトで実践的に慣れていくのがベストだと思います。
翻訳の場合、他の業種に比べればシンプルな収入構造なので、基本的なことをいくつか理解できればあとは簡単です。
ソフトに年間の売上や経費などを入力していけば確定申告を済ませられるので、今ではとても重宝しています。
最後に
今回は翻訳者の確定申告という目線で、会計知識ゼロから始める基本情報を整理してみました。
不足している情報もあると思いますので、更新を続けていきたいと思います。
どうか皆様の確定申告が無事に終わりますように!
※できる限り国税庁の情報に基づきまとめるようにしましたが、申告者の状況はさまざま異なりますので、何かありましたら税務署に確認していただけますようお願い申し上げます。問い合わせると優しく教えてくれます~(2~3月は確定申告の提出期間で職員の皆さんも忙しいため早めがいいと思います)